書評「真説 長州力」(田崎健太/集英社文庫)~長州力のプロレス観とは

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遅まきながら、「真説 長州力」(田崎健太/集英社文庫)を読みました。力作、良書です。

ハードカバーを購入したつもりが、手違いで文庫版を・・・でも、あとがきを読むと「文庫化にあたり永田裕志、安生洋二とご本人に追加取材した」と書かれてあり、結果として正解でした。

 

●長州インタビューがハードワークな理由

 

あとがきに著者は繰り返し、「まとめるのが大変だった」と書かれています。

 

対象の長州本人がアレですし、プロレスというジャンルは関係者証言も東スポなどの史実とされるものも信憑性が不明すぎますし、アントニオ猪木という”魔王”が絡むクーデター事件は「逃げたくなった」ほどややこしかったと。そりゃそうですよね。。。

 

多くの方が長州のインタビューが難しい、という理由を、もはや有名な「活舌の悪さ」にあると思いがちですが、本当の難しさはソコではありません。

 

長州力は(ほかの関係者に比べ圧倒的に)嘘をついたり、自分をよく見せようとはしない正直な人である、と思いますが、「特殊な言語感覚の持ち主」なのです(長州ご本人と著者は「なぞなぞ」と表しています)。

 

当事者はその場その場で必死ですでに記憶になかったり、そもそも長州力は普段からプロレスについて語ることが大キライ。

 

さらには、ほかのレスラーのプロレス感とも相容れないレベルの独自のプロレス観の持ち主で、シロウトがしたり顔で語るなんてもってのほか。加えて、なんなら有名人であることも、騒がれることも好きじゃない、という非常にやっかいなお方なのです。

 


 

●ミュンヘン オリンピック「韓国」代表の謎

 

この書籍で著者はそんな長州の周辺事実を固め、酒を酌み交わしながら根気強く何度も何度も繰り返し質問して、もっともわかりやすい回答をまとめておられます。

 

おそらくは幼少期から大学生まで、アマレスラー時代については「在日朝鮮人である」というデリケートな部分がありますが、それでも比較的進めやすかった印象です。多くの友人や恩師が、長州の人となりを愛している様子も伝わってきました。

 

私的には長年謎だった「韓国選手団でのオリンピック出場」の経緯を初めて知りました。

 


 

●プロレスへの複雑な感情

 

それよりも、プロレスラーになってから、を聞き出してまとめる作業が、大変だったと思います。

 

プロレス特有の「業界秘=タブー」をどこまで話してよいものか、という逡巡、「シロウトにわかるはずがない、わかる必要がない」という思いに加えて、「アマチュアレスリングを極めたアスリートがプロレスをやることについての違和感と誇り」などが複雑に絡み合う感情が読み取れました。

 

中でも猪木-藤波-タイガー-藤原‐前田ら、ゴッチ信奉者がメインストリームである新日プロの中で、アマレス出身の長州の立ち位置は独特。この辺りの機微も、味わい深いものがあります。

 


 

●「噛ませ犬」の真相

 

例の「噛ませ犬反乱事件」の際に、アントニオ猪木とどんな会話を交わしたのか、おぼろげな記憶ですが書かれています。アレは皆が思うようなベタなアングルではなく、猪木が長州に”気づき”を与えただけ、というあたりがシビれます。

 


 

●取材拒否の面々

 

「プロレスラー長州力」を知るほとんどのレスラー、関係者が登場(新間寿氏、大塚直樹氏、上井氏、坂口、藤波、佐山、浜口、小林邦昭、越中、グラン浜田、大仁田厚、保永、宮戸、タイガー服部、谷津嘉章キラー カーンも)しますが、なぜか天龍源一郎はラインナップになく、マサ斎藤佐々木健介、そしてアントニオ猪木は取材させてもらえず、だったそうです(なんとなく北斗晶がNGなんじゃないかと思えますが)。そして、ゴマシオのオヤジがテキトーで最低、信じちゃいけない、ということが改めてよくわかりました(笑)。

 

そしてやっぱり、長州の本なのに「あとがき」にある「アントニオ猪木という人は・・・」が強く印象に残るのでした。

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