「侍ジャイアンツ」~1971-1974 実は梶原ワールド!破天荒プロ野球・魔球アニメは少年ジャンプが原作だった

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「巨人の星」と並ぶ、70年代のスポ根・野球アニメといえば・・・
この「侍ジャイアンツ」を挙げる方は多いでしょう。

 

 

我々世代は、あの「ズンタタタ~」の有名な主題歌を、いまも歌える人がほとんどですよね。数々の「魔球」と主人公「番場蛮(ばんば・ばん)」を、覚えている方も多いでしょう。

 

しかし実はこの侍ジャイアンツ、巨人の星と同じ「原作:梶原一騎」であり、原作マンガは「週刊少年ジャンプ」に連載されていて、実は超豪華なスタッフ陣が制作していたことを、知らない方が多いのではないでしょうか。

 

そこで今回は原作マンガを交えて、昭和のプロ野球アニメの傑作「侍ジャイアンツ」の魅力をご紹介します。

 

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「侍ジャイアンツ」とは?

 

マンガ原作「侍ジャイアンツ」

原作:梶原一騎/作画:井上コオ
連載:1971年36号~1974年42号
単行本:全16巻

 

TVアニメ「侍ジャイアンツ」


1973年10月7日~1974年9月29日
毎週日曜19時30分~20時
全43回+総集編2話
日本テレビ系列
制作:よみうりテレビ、東京ムービー

 

本作は圧倒的にアニメが有名。70~80年代は、平日夕方にしょっちゅう再放送していました。

 

なにせ往年のプロ野球選手が実名で登場しますし、実写映像まで流れます。主人公の「番場蛮(ばんば・ばん)」というネーミング、次々と繰り出されるハデな魔球、そして主題歌のインパクトも絶大。

 

当時の東京ムービー(現トムス・エンタテインメント)ならではのテンポのよさとキレまくりの演出(なんと演出は「オバケのQ太郎」「巨人の星」の長浜忠夫、作画監督には大塚康生、絵コンテには富野喜幸らが参加。第1話では原画として宮崎駿も参加など、超豪華なスタッフが制作)で、野球に興味のない(巨人の全盛期を知らない)子どもにも楽しめる、人気アニメとなりました。

 

「打倒・巨人の星!」で連載開始

 

集英社「少年ジャンプ」は、1968(昭和43)年7月11日に創刊。創刊時は月2回(第2・第4木曜日)発売でしたが、翌1969(昭和44)年10月から週刊化され「週刊少年ジャンプ」となりました。

 

 

本誌のスローガンは「友情・努力・勝利」。当時はすべての掲載作品のテーマにこの要素または繋がるものを最低1つ、必ず入れることが編集方針になっているとされていました。

 

創刊時の公称発行部数は10万5000部。当初は「父の魂」「男の条件」「ハレンチ学園」「男一匹ガキ大将」「デロリンマン」など、男臭い劇画調の作品が掲載されていました。1971(昭和46)年には、公称発行部数100万部突破。

 

そして1973(昭和48)年8月、講談社の「週刊少年マガジン」を抜いて、悲願の雑誌発行部数首位の座を獲得します。

 

この「侍ジャイアンツ」は、ちょうどそのジャンプ創刊からの躍進時を支えた人気作品。同時期の連載マンガには「あらし!三匹」「ど根性ガエル」「トイレット博士」「荒野の少年イサム」「ライオンブックス」「アストロ球団」「マジンガーZ」「はだしのゲン」「包丁人味平」「プレイボール」などがあります。

 

 

集英社は当時、講談社(少年マガジン)に代わり、東京読売巨人軍(ジャイアンツ)の漫画権を獲得。「なんとしても『巨人の星』を超える野球マンガを!」という狙いの下、原作に「巨人の星」の梶原一騎本人を招き、作画に期待の新人・井上コオを起用し、なんと「巨人の星」の連載が終了した翌月(1971年10月)には連載をスタートさせるという、熱の入れようでした。

 

 

作画担当・井上コオとは?

 

作画を担当した井上コオ氏は、「ワイルド7」で知られる望月三起也さんのアシスタントだった新人。読み切りデビューはしていましたが、本作が初の連載デビューとなりました。

 

井上コオ

▲2014年時の井上コオ氏

 

井上コオ氏の事実上のヒット作品は、この「侍ジャイアンツ」1作のみ・・・。

 

そして当時、本作でアシスタントをしていたのが後に「リングにかけろ!」「聖闘士星矢」などで超人気マンガ家になる車田正美さんでした。

 

「巨人の星」と「侍ジャイアンツ」

 

ほぼ同時期、同じ梶原一騎作品、V9時代の巨人軍(プロ野球)が舞台ということで、どうしても「侍ジャイアンツ」は「巨人の星」と比較される運命にありました。長島茂雄や王貞治など、実在のプロ野球選手が多く登場するのも共通しています。

 

大きく異なるのが、主人公像です。

 

「巨人の星」の星飛雄馬は求道的で真面目、シリアスで熱血。

 

「侍ジャイアンツ」の番場蛮はとにかく負けず嫌いで明るく、細かい事は気にしない豪放磊落かつ激情家で、豪速球だがコントロールが滅茶苦茶でした。

 

しかも巨人の星を目指す飛雄馬に対し、番場蛮は「巨人の権威に反発する」キャラクターとして描かれます。さらには家庭環境も星飛雄馬は父子家庭で姉ひとり、番場蛮は母子家庭で妹ひとり、と徹底して真逆です。

 

しかし、紆余曲折の後に番場が巨人入りして以降は、どちらも「魔球」を編み出し、対決していくストーリーとなりました(「新・巨人の星」との共通点を指摘する意見も)。しかし、「侍ジャイアンツ」は「巨人の星」よりも荒唐無稽で、当時は「二番煎じ」「お子様向け」と揶揄する声もありました。

 

マンガ版は連載も2年が経過すると人気が低迷し始めますが、1973年10月からアニメ放送がスタートすると人気が再上昇しました。

 

アニメ版「侍ジャイアンツ」

 

このアニメ版は、長浜忠雄、宮崎駿、小田部洋一、出崎哲、さらに富野由悠季(当時は喜幸)ら、錚々たる顔ぶれが集結した作品として知られています。

 

本作は「巨人の星」と同じ、よみうりテレビ・東京ムービー制作。キャラの表情やアクションに、「ルパン三世(第1シリーズ)」の雰囲気を感じます。

 

 

 

監督を務めたのは「巨人の星」と同じ長浜忠夫氏。当初、当時東京ムービーと提携していたAプロダクション所属の高畑勲氏が監督候補に挙げられていたそうですが、高畑氏は「アルプスの少女ハイジ」を監督することになり退社。このAプロには高畑氏のほか、東映動画出身の宮崎駿氏、大塚康生氏、小田部羊一氏らがいました。

 

キャラクターデザインおよび作画監督を務めた大塚康生氏は、原作とはかなり違うキャラクターを描き(主人公の番場蛮はルパン調、ヒロイン・美波理香はまんま峰不二子)、「巨人の星」の劇画調とは異なるアニメ的な世界観を構築しますが、演出方針を巡って長浜監督と対立し、早々に途中降板。

 

 

また、第1話で原画を担当した宮崎駿氏と小田部羊一氏も高畑氏を追って「アルプスの少女ハイジ」に参加するためAプロを退社、本作から離れてしまいました。

 

この第1話は演出が凄いとよく話題に上ります。冒頭、主人公の番場蛮が嵐の海ででっかい銛を持ち、巨鯨に空から飛びかかるシーンは、後の「未来少年コナン」を彷彿とさせます。

 

 

超有名な主題歌

 

「ズンタタタ~」で有名な主題歌。菊池俊介サウンドの血沸き肉躍る名曲です。カット割りも演出も素晴らしい。歌っている「松本茂之」のは別名ですが、水木一郎さんです(声を聞けばわかりますが)。

▲「侍ジャイアンツ」(第1 – 24話)
作詞:東京ムービー企画部 / 作曲:菊池俊輔 / 唄:松本茂之

 

▼こちらは前期ed。ど根性ガエルっぽいですねw

 

 

そしてこちらも名曲と誉れ高い、後期OP。一転して「巨人の星」タッチのシリアス調に。

▲「王者侍ジャイアンツ」(25話-)
作詞:梶原一騎 / 作曲:政岡一男 / 歌:ロイヤルナイツ

 

「♪ジャイアンツの、ジャイアンツの旗のもと~」の歌詞は、原作の梶原一騎さん書き下ろし。なんと今なお、ジャイアンツの応援歌として球場で歌い継がれています。

 

この後期OPには、2つの謎があります。

 

1つ目は、作曲の「政岡一男」という人物。ほかに手掛けた曲がない、音楽担当は菊池俊輔氏なのに唐突に表れたことから、誰かの変名ではないか?と言われていますが、謎なのです。

 

2つ目は、38話の1回のみ、あの!子門真人さんが歌ったバージョンが流れたこと。なぜ1回のみ・・・???このバージョンもキレがあってめちゃカッコイイのですが、子門さんが歌うと「灰になっても飛ぶ火の鳥さ~」のあたりがガッチャマンみたいですw

 

▲幻の子門真人バージョン

 

 

▼そしてこちらが後期ED。OPにあわせてシリアス調になりました。

 

こんなカッコイイ曲を毎週見ていたら、そりゃ子どもたちはプロ野球(ジャイアンツ)に憧れますよね。

 

裏番組との視聴率戦争

 

こうして、「巨人の星に続く、ジャイアンツアニメ第二弾!」として関係者の大きな期待を背負いスタートしたアニメ「侍ジャイアンツ」ですが、蓋を開けると視聴率は8%前後と低迷・・・。

 

その理由は、本ブログでもたびたび登場する、昭和の大問題「強力な裏番組」でした。

 

そしてその裏番組とは・・・「山ねずみロッキーチャック」からの「アルプスの少女ハイジ」!

 

 

そうです、本作は「宇宙戦艦ヤマト」の前番組で、日曜夜7時半からの放送だったのです(ちなみに、番場蛮もヤマトの古代進も、どちらも声優は富山敬さんでした)。ヤマトだけでなく侍ジャイアンツも窮地に陥れるハイジおそるべし・・・

 

>ヤマトvsハイジの視聴率戦争についてはこちら

 

対策としてよみうりテレビは「雨の日でもジャイアンツ戦が見られます!」をウリに、実写のプロ野球映像を挿入、現実のペナントレースの展開を取り入れ、長島や王ら人気選手が登場する一軍での試合シーンをメイン展開として「ジャイアンツファン」を取り込む作戦に出ます。

 

 

その弊害で、原作では丁寧に描かれていた番場蛮の「アンチ巨人」の反逆児としての描写や、ノーコン改良、二軍での猛特訓、魔球の開発などもかなり省かれ、バタバタの駆け足展開になってしまいました。もっともそれが本作のテンポにもつながっているのですが、「簡単に魔球が生まれて、簡単に打たれて終わる」、しっくりこない展開になってしまったのは残念です。

 

番場蛮の開発した「魔球」(すぐ打たれる)

 

当時の野球マンガ(アニメ)といえば、何と言っても「魔球」。本作も荒唐無稽な描写と共に「魔球」が数々登場します。

 

ハイジャンプ魔球

 

番場蛮の弱点は、致命的なノーコン。鳴り物入りで入団したにも関わらず、「プロ失格」の烙印を押されてしまいます。生き残るには「魔球」しかない!と番場が開発した最初の魔球が、このハイジャンプ魔球でした。

 

 

 

セットポジションから振りかぶり、片足で4メートル以上ジャンプ、全体重を乗せた剛速球を投げ下ろす…番場はこれで「予告完全試合」を達成します。

 

 

しかし、ライバルで怪力の中日・大砲万作に打たれ、番場は病院送りに・・・

 

ハイジャンプエビ投げ投法

 

入院中の番場は次に、釣り竿からヒントを得て体を反り返らせ、コースも読めない上に威力も従来の倍以上という「ハイジャンプエビ投げ」投法を開発。

 

 

 

しかしこれもアパッチの血を引く阪神のスラッガー、ウルフ・チーフの「スクリュー打法」に打ち砕かれます。

 

大回転魔球

 

失意の番場は地元に帰り、偶然転がる樽にヒントを得て今度は「大回転魔球」を開発。自ら高速回転するためいつ投げるか解らず、その上遠心力の加速によって、球は人間の目では追跡不可能!

 

 

 

しかし、これまたヤクルトの天才ライバル・眉月光の「バスターでホームラン」打法で打ち砕かれます。

 

分身魔球

 

失意に打ちひしがれた番場は、シーズン中にも関わらず一人旅に(笑)。八幡先輩の親友である空手家、大山田 拳から握力を驚異的に増大する独創的武道「自然借力法」を学び、硬球を握りつぶして予想の付かない変化を起こす「分身魔球」をひっさげて復帰します。

 

 

しかし、これまたアッサリ、ウルフ・チーフに打たれてしまいます。

 

すると番場は「横に分身するのではなく、縦に分身させれば打ちにくい」とひらめき、改良型「縦分身魔球」を編み出します。

 

が、その1ヶ月後、アメリカ大リーグ・アスレテックスの天才打者、ロジー・ジャックスに打たれてしまいます・・・。

 

 

原作とアニメの違い

 

アニメ版が原作を踏襲しているのは「ハイジャンプ魔球登場」あたりまで。その後の展開は、ほぼアニメオリジナルになっていきます。

 

また、アニメでは番場蛮のキャラをより破天荒にする演出がなされていて、第1話の「鯨との決戦」、第3話の「巨人軍のヘリコプターをハイジャンプで叩き落とす」など、ハチャメチャな描写が相次ぎます。そのほか、寮の先輩軍団や「蛮ちゃん私設応援団」など、原作にはないオリジナルキャラも登場。川上監督とのクビを賭けた対決も、原作にはありません。

 

番場が魔球に走った理由も、アニメは「ノーコン改良の延長線」だったのに対し、原作では「身長、体重がなく球が軽い上に盗塁しやすいモーションではプロでは通用しない」と川上監督に指摘され、より深刻でした。

 

魔球についても、

「エビ投げハイジャンプ魔球」「ミラクル・ボール」はアニメのみ。

「ハラキリシュート」は漫画のみ。

「分身魔球」はアニメ・漫画共に登場しますが、「縦・横分身」はアニメのみに登場、さらに原作では「分身魔球」が登場するのは最終回の1話前で、唐突な展開に驚きます。

 

衝撃のラスト・番場蛮が死んだ!

 

そしてなんといっても、衝撃的なのが原作版のラスト。なんと番場蛮は分身魔球の多投で心臓マヒを起こし、マウンド上で仁王立ちのまま、絶命。ラストシーンは番場の「球団葬」で幕となるのです。

 

 

実はこれには理由があり、侍ジャイアンツは連載当初から、「巨人が優勝を逃したら、即連載終了」という暗黙の掟があったのだとか。そして現実に、巨人は1974(昭和49)年のペナントレースでV10を逃し、連覇が途絶えてしまいます。連載が急展開で終了したのはそのためで、最終回の掲載は「10月14日・長島茂雄引退試合」のタイミングに合わせて掲載されました。

 

アニメ版の最終回

 

主人公の死という衝撃の原作ラストとは異なり、アニメ版はハッピーエンドです。

 

ジャイアンツはアメリカ大リーグ「世界最強」のアスレテックスと、日米ワールドシリーズで戦います。しかし、番場は切り札「縦分身魔球」を天才ジャックスに打たれ、後楽園球場から敵前逃亡(よく逃げる)。

 

そんな番場をガールフレンドの理香は後楽園ゆうえんちの観覧車に乗せて「蛮ちゃん、あのグラウンド、何に見える?」・・・その問いに対し、番場は「あれはでっかい鯨よ!」

 

 

これで番場は立ち直り(なぜだ笑)、再びマウンドに上がります。相手はやはりジャックス。番場は過去の魔球を総出しで投げますが、どれも真芯のファールでカットされ、最後の1球に勝負がかかります。

 

番場蛮はここで、これまでのすべての魔球をミックスした超魔球「ミラクルボール」を放ち、見事ジャックスから三振を奪います。

 

最優秀選手にもなり、ついに世界一の投手となった番場に、川上監督のセリフが重なります。「番場よ、本当におめでとう。おまえはもうジャイアンツだけのサムライではない。今や世界のサムライになったんじゃ。それも山あり谷ありの厳しい勝負の道をひたすら歩み続けたからこそ、今日の栄光があった!しかし、野球の道はこれで終わったわけではない。これから厳しい野球道が待っている。サムライよ、万丈の山がいくつ阻もうと、千尋の谷に何度落ちようと、前へ進め!その前途を祝って、もう一度言わせて貰おう。番場蛮、本当に、おめでとう!」

 

 

 


 

いかがでしょう。誰もが知っている「侍ジャイアンツ」、意外と知らない一面があったのではないでしょうか?

 

「梶原一騎原作」で「少年ジャンプ連載」、というのも意外な組み合わせです。そしてこの後、あの伝説の超人野球マンガ「アストロ球団」へと続いていくのです・・・(つづく)

 

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