「さすらいの太陽」~1971 幻の名作・元祖 歌謡アイドル アニメ

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今回は、70年代・昭和の芸能界・歌謡界の光と影を舞台にしたアイドルアニメの“原点”であり、大映テレビ調のドロドロ人間ドラマを描いた“元祖”とも言える、まさにエポックメーキングな作品・・・でありながら、放送当時、強力な裏番組のために「知る人ぞ知る」存在となった幻の名作アニメ、「さすらいの太陽」(1971年)を取り上げます!

 

 

そして実は本作、後に日本サンライズを立ち上げる富野&安彦コンビが携わっていたという、アニメ史においても重要な作品なのです。

 

「さすらいの太陽」
1971(昭和46)年4月8日 ~ 9月30日
フジテレビ系 毎週木曜日19:00~19:30
制作:虫プロダクション
全26話
原作:藤川桂介、すずき真弓
脚本:雪室俊一、山崎忠昭
演出:林政行
プロデューサー:別所考治、岸本吉功
キャラクターデザイン:高橋信也
作画:野辺駿夫

 

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解説にいく前に、私と本作の関係について

 

放送当時、私は1歳。なので、当然本放送は観ていません。放送終了後に「再放送が繰り返された」という記述を見かけますが、それすらも一度も見た記憶がありません。

 

しかし、幼少期からよく聴いていたこのLPレコードに「帰ってきたウルトラマン」「宇宙猿人ゴリ(スペクトルマン)」「アニメンタリー・決断」などと並んで本作の主題歌が収録されていて、歌と絵だけは知っていました。

 

 

CDなどと違い「アタマ出し再生」(これすらももう死後ですが)もできないため、興味もないのにこの主題歌を繰り返し聴いていました。そして、幼心に「なんていい歌なんだろう」「いったいどんな話なんだろう」とずっと思っていました。「さすらい」というワーディングに、ギターを持った美少女キャラのビジュアルも、謎めいていました。

 

 

*それはもう一つの未見の作品「アニメンタリー・決断」も同じでして・・・それについてはコチラで詳しく解説しています。

 

そして今回、ついに本作を取り上げるにあたって番組を見て、当時見ていた人たち、その後に知った人たちのレビューを読んで、本作は「隠れた名作」であると共に、「実は日本のアニメ史においてかなり重要な作品」であることを知りました。

 

かつてダウンタウンの特番、「マツコ・有吉の怒り心頭」でも取り上げられたらしく、それきっかけで知った人も多かったようです。

 

いずれにしても、改めて聴いても主題歌、エンディング、挿入歌など本作の楽曲のクオリティはヤバいです。これぞ70年代、という時代を感じさせますが、おそらくは現代の若い世代が聴いても、胸を打つ魅力があります。

 

いつにもまして前置きが長くなりましたが、ここから本題です。

 

果たして「さすらいの太陽」とは何なのか?調べてみたら、数々のエポックメーキングな魅力を持つ、面白過ぎる作品でした。

 

芸能界・アイドルアニメの原点

 

「さすらいの太陽」を制作した虫プロのアーカイブサイトには、こう書かれています。

 

日本初、芸能界を描いたアイドルアニメ
原作は藤圭子をモデルとした少女漫画、
少女の人生を音楽を通して描いた“音楽根性もの”

 

「さすらいの太陽」とは、藤川桂介原作、すずき真弓作画による漫画作品(週刊少女コミック連載)、およびそれを元に製作されたTVアニメです。

 

 

いまとなっては「宇多田ヒカルの母親」として知られる藤圭子さんをモデルにした主人公・峰のぞみが、数奇な運命に翻弄され、さまざまな苦難を乗り越えながら歌手になる夢を目指す、青春・根性モノです。

 

 

アニメ作品として日本初、芸能界・歌手・音楽・歌謡曲を主体に取り入れ、現在で言うところの「アイドル系アニメ」または「音楽系アニメ」の礎を築いた作品、ということになります。いわば、この「さすらいの太陽」は「魔法の天使クリィミーマミ」「アイドル伝説えり子」「けいおん!」「アイドルマスター」の遠い遠い先祖、原点とも言うべき作品なのです。

 

大映ドラマ・韓流ドラマの源流

 

これだけでも十分エポックなのですが、本作にはもう一つの顔があります。それは、「同じ誕生日に生まれた赤子が産院ですり替えられ、一人は大財閥の令嬢、もう一人は下町の貧しい家庭で育ち、後にライバルとして競う」という設定です。

 

いまとなっては韓流ドラマによくある、ベタなネタです(当時は「メロドラマ」と呼ばれていました)。

 

でも、本作は韓流ドラマに影響を与えたと言われる、大映ドラマ「赤い運命」(1976)「乳姉妹」(1985)よりもずっと前です。この「新生児取り違え」は現実社会で第二次ベビーブームだった高度経済成長期に多発し、1977(昭和52)年に沖縄で発覚して社会問題化しますが、本作はそれよりも前、取り違えが実際に起きた1971(昭和46)年放送です。

 

 

原作者である藤川圭介氏(「ウルトラマン」「マジンガーZ」「宇宙戦艦ヤマト」「突撃!ヒューマン」「サンダーマスク」の脚本でも知られる)の「先見の明」はスゴイですね。

 

倒産危機下の虫プロ作品

 

制作の「虫プロ」は、言わずと知れた手塚治虫さんが設立したアニメ制作会社。1960年代から悪化していた虫プロの経営は、この時期、破綻の危機に陥っていました。

 

その理由は、梶原一騎原作の「あしたのジョー」「巨人の星」が巻き起した「劇画ブーム」。当時、「手塚治虫の絵はもう古い、アニメ化しても採算が取れない」と言われていました。また、手塚作品をアニメ化すると手塚さんが介入し、スケジュールがズタズタに遅延することも問題でした。手塚治虫さんは虫プロの負債を引き受け、責任をとって代表取締役を退任します。

 

こうして元々手塚作品をアニメ化するための虫プロは、「あしたのジョー」「アンデルセン物語」「国松さまのお通りだい」などと共に、少女漫画を題材とした本作を手掛けることになりました。(結果としてそれでも状況は好転せず、状況は悪化し続けるのですが・・・)

 

裏番組が「タイガーマスク」で苦戦

 

本作がほとんど知られておらず、マイナーな作品になったのには理由があります。

 

それは、この「木曜夜7時」の裏番組が超人気アニメの「タイガーマスク」(日本テレビ)だったこと。当時を知る方によれば、「ほとんどの子供は『タイガーマスク』を見ていて、終わってからチャンネルを回して『さすらいの太陽』のエンディング曲だけ聴いていた」というコメントが結構あります。ちなみに、裏番組には田宮二郎さんが司会の「クイズタイムショック」(NET:現テレビ朝日)までありました。

 

当時はまだ家庭にTVが1台、もちろんビデオ録画機もない時代。この「強力な裏番組」で苦戦を強いられた作品は数えきれません。本ブログでもいくつか採り上げています。

 

月曜夜7時の視聴率戦争(ミラーマンvsシルバー仮面・アイアンキング)

 

日曜夜7時の視聴率戦争(宇宙戦艦ヤマトvsアルプスの少女ハイジ・フランダースの犬vs猿の軍団)

 

土曜夜の視聴率戦争(全員集合vsキカイダー・デビルマン)

 

少女版あしたのジョー?

 

この「さすらいの太陽」の主人公、峰のぞみのファッションは、「あしたのジョー」の矢吹丈にソックリ。ハーフコートにハンチング帽、なぞのショルダーバッグ・・・違いはジョーはグローブ、のぞみはギター、というくらいです。

 

それもそのハズ、「あしたのジョー」も「さすらいの太陽」も同じ虫プロ作品。スポ根ブームの世相を反映して、本作のアニメ化に際し「あしたのジョーの女の子版を目指そう」としたのもムリもありません。

 

原作もまた「幻の作品」

 

原作漫画は1970(昭和45)年8月~1971(昭和46)年8月、小学館「週刊少女コミック」に連載された、少女漫画です(原作:藤川圭介/作画:すずき真弓)。

 

 

しかしながら原作は過酷・残酷なシーンが多過ぎ、アニメ化に際してストーリー性を残しつつシナリオやキャラの容姿、設定が大幅に変更されており、絵柄もまったく異なります(アニメでも結構過酷なのですが、原作では主人公は、さらにヒドイ仕打ちを受ける)。

 

さてこの原作漫画、1973(昭和47)年に単行本も発売(全4巻)されましたが、発行部数が少ないまま廃刊。さらに出版元の若木書房が1982年頃に倒産したことで希少本化し、中古市場でプレミアがつきました。その後、2006年にコミックパークで再刊され、購入可能となっています。

 

 

「日本サンライズ」の源流?

 

アニメ「さすらいの太陽」の制作スタッフには、興味深い面々が参加しています。

 

 

プロデューサーは岸本吉功氏。演出(絵コンテ)は、当時フリーだった富野由悠季氏が斧谷喜幸というペンネームで参加。キャラデザインは東映動画部の契約社員だった高橋信也氏が、名前を隠しアルバイトとして担当したそうです。設定制作と脚本には星山博之氏、作画設定(デザイン補)に安彦良和氏、原画には八幡正氏。

 

 

富野・星山・安彦と言えば「機動戦士ガンダム」を創った方々。それもそのはず、この「さすらいの太陽」放映終了後の1972(昭和47)年、虫プロのスタッフが独立して岸本氏を初代社長として創業したのが「有限会社サンライズスタジオ」(後の日本サンライズ→現サンライズ)なのです。安彦氏は虫プロ養成所の教官・沼本清海氏に「高橋信也に女の描き方を習え」と言われ、本作の作画設定に抜擢されたのだとか。

 

ちなみに、同時期に放送されていた「あしたのジョー」のメインスタッフだった出崎統氏、丸山正雄氏らは「マッドハウス」を立ち上げました(虫プロは1973(昭和48)年に倒産)。

 

元祖 アイドル・音楽アニメ

 

前述の通り、本作はアイドル・音楽アニメの元祖的な作品。主人公峰のぞみのモデルは、当時人気絶頂だった藤圭子さん(宇多田ヒカルさんの母)です。作中では当時の芸能界・歌謡界の裏側が描かれ、当時の人気歌手が実名で登場したり、当時の流行歌のカバーも数多く流れます。

 

 

「圭子の夢は夜ひらく」「さいはての女」「女のブルース」(藤圭子)
「知床旅情」(森繁久彌)
「卒業させてよ」(和田アキ子)
「手紙」(由紀さおり)
「花嫁」(はしだのりひことクライマックス)
「真夜中のギター」(千賀かほる)
「1+1の音頭」(水前寺清子)
「白いブランコ」(ビリー・バンバン)
「愛に生き平和に生きる」(ピンキーとキラーズ)
「遠くへ行きたい」(ジェリー藤尾)
「世界は二人のために」(佐良直美)

などなど・・・

 

巨匠いずみたく氏 と “幻の歌手“藤山ジュンコ

 

なんといっても素晴らしいオープニングとエンディング。私が何も知らずに幼少期に聴いていた名曲は、いずみたくさんの手によるものだったのか・・・。いま聞いてもまったく色褪せず、イントロからその「ザ・70年代」世界観に魅了されます。

 

 

オープニングテーマ – 「さすらいの太陽」
作詞:山上路夫 / 作曲・編曲:いずみたく / 唄:スリー・グレイセス、ボーカル・ショップ

 

エンディングテーマ・挿入歌 – 「心のうた」
作詞:三条たかし / 作曲・編曲:いずみたく / 唄 – 藤山ジュンコ/堀江美都子

 

「さすらいの太陽」の主人公・峰のぞみを演じているのは、藤山ジュンコさん。彼女はいずみたく氏の弟子で、抜群の歌唱力を買われて本作でタイアップのようなカタチでデビューしました。劇中の峰のぞみの歌声は、すべて彼女が担当しています。

 

ちなみにエンディング曲の「こころのうた」は、番組途中から後のアニソン女王・堀江美都子さんが歌うバージョンも流れました。こちらも素晴らしい歌声(当時14歳!)で、支持する方が大勢います。

 

 

 

第18話「港にこだまする歌」で流れるソウルフルなナンバー「鎖」はオリジナルで、1971(昭和46)年6月5日にシングル盤がリリース、歌手・藤山ジュンコさんのデビュー曲になりました。

 

 

「鎖」
作詞:山上路夫/作曲・編曲:いずみたく/唄:藤山ジュンコ

B面「あなたに選ばれて」
作詞:山上路夫/作曲・編曲:いずみたく/唄:藤山ジュンコ

 

しかし藤山ジュンコさんは「さすらいの太陽」の番組終了後、ほどなくして周囲の慰留の声の中、突如として芸能界を引退。その後は消息不明で、「伝説・幻の歌手」となりました。

 

そんな藤山ジュンコさんですが、35年後の2007年、意外なカタチで復活を遂げました。彼女の実兄・藤山顕一郎さんが憲法9条改正問題を扱ったドキュメンタリー映画「We 命尽きるまで」の主題歌「We shall overcome」を担当しました。

 

その後の「さすらいの太陽」

 

前述の通り、強力な裏番組の影響で視聴率も苦戦した本作ですが、当時の視聴者だった世代や、後に再放送で見た人たちの間では、そのストーリー性と楽曲のクオリティの高さに感動する人が続出。輸出された海外にも熱心なファンが存在するなど、知る人ぞ知る名作アニメとして名高い作品です。

 

2006年9月、コロムビアミュージックエンタテインメントより全話を収録したDVD-BOXが発売。2020年1月からは、CS放送局の歌謡ポップスチャンネルが再放送を開始しました。

 

 

運命のいたずらで入れ替えられた、大金持ちの娘と貧乏人の娘とが同じ歌手を目指して競い合う物語。主人公の峰のぞみは金の力でのし上がるライバルの妨害交策に悔しい思いをしながらも、自らが信じる歌の心を会得するため、悲しみながら、さすらいながら、さまざまな苦労に立ち向かっていく―

 

 

ストーリーや、舞台設定、楽曲の数々には時代を感じさせる古臭さがありますが、この時代の何とも言えない混沌とした”熱”みたいな空気を感じることができます。

 

その根っこにある本質は、現代においても十二分に心を振るわせる何かがあります。

 

未見の方は、ぜひ一度、ご覧になってください。
GYAO! https://gyao.yahoo.co.jp/store/episode/A112352001999H01

コメント

  1. みきろ より:

    定かではありませんが、アニメ放送前は「はだかの太陽」というタイトルだったのが放送にあたり「さすらいの太陽」になった記憶があります。子供のころの記憶なので、勘違いかもしれませんが……。

  2. 雪月花 より:

    少し前まで新潟の地元紙『新潟日報』に村山由佳さん作の『星屑』という小説が連載されてまして(最近書籍化されたみたいです)、70年代の芸能界が舞台なのでそれもまた私にとっては新鮮に映ったんですが…TERU様の解説を読むと、この『星屑』が頭に浮かんできました。
    とすると、本当にこの『さすらいの太陽』は当時としては斬新だったのではないかと思います。
    絵のタッチも素敵ですね。古臭さがないというか、今でも十分通用しそうです

    • MIYA TERU より:

      コメントありがとうございます!そうなんですよ、実際に歌手をデビューさせるとか、当時としてはかなり画期的な試みがたくさんなされていて、調べる程に面白い作品です。絵柄や演出は時代を感じさせますけど、センスいいですよね。エンディングの線画なんてシビれます。

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