「松田聖子×松本隆」② 1981-1984 アイドル史上最強!のシングル15作品【後編】

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前編に続いて、「松田聖子×松本隆」シングル15作品の魅力を、主に詞の世界観に主眼を置いてご紹介する後編、1983-1984年です。

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1983年2月発売 12th.シングル「秘密の花園」

 

 

作詞:松本隆さん、作曲:呉田軽穂(ユーミン)+編曲:松任谷正隆さん。

 

この楽曲で松田聖子さんはピンクレディーが保持していた「9曲連続1位」の記録を破り、10曲目の1位を達成。これは1980年発売の3rd.シングル「風は秋色」から、この後24曲目まで続きました。

 

ここでは「風立ちぬ」や「赤いスイートピー」のヒロインとはまったく異なる世界観で、「ママの目を盗んで」「月明かりの岬」に呼び出された女性が主人公です。

 

「Hold me tight 入江の奥は 誰も誰も知らない秘密の花園」

 

この楽曲はエロティックな隠喩が施されていて、河合奈保子さんの「大きな森の小さなお家」と同じ手法。聖子さんはショートカットにマイクロミニの衣装で、全国の男子を悶絶させました。

 

この楽曲のキモは、「他の娘に気を許したら 思い切りつねってあげる」ですかね。

 

1983年4月発売 13th.シングル「天国のキッス」

 

 

作詞:松本隆さん、作/編曲:細野晴臣さん。大滝さんに続く新たな「はっぴいえんど」コンビの作品であり、2作目主演映画「プルメリアの伝説 天国のキッス」の主題歌でした。

 

松本隆さんと「YMO」細野晴臣さんコンビは、イモ欽トリオ「ハイスクールララバイ」という大ヒットがありました。テクノポップの天才細野さんらしい、転調が繰り返される技巧的な一曲。松本隆さん自身、この楽曲が「松田聖子さんプロジェクトの最高傑作」と自認していた時期もあるそうです。

 

これも聴きようによってはエロティックな詞で、意図的に2作続けたのでしょう。

 

「ちょっとからかうはず」「泳げないふりわざとした」「抱きしめられて気が遠くなる」

 

この楽曲のキモは「誘惑されるポーズの裏で 誘惑してるちょっと悪い子」ですね。

 

「男心を手玉に取るお姉さん」的要素と、「ペースを乱されて焦る乙女心」のツンデレ的な世界観が絶妙です。

 

1983年8月発売 14th.シングル「ガラスの林檎」/「SWEET MEMORIES」

 

 

「ガラスの林檎」は作詞:松本隆さん、作曲:細野晴臣さん。編曲は細野晴臣さん&大村雅朗さんです。

 

これまでと一転して荘厳な空気感のこの楽曲は、若松Dの「明日に架ける橋(サイモン&ガーファンクル)みたいな曲を」とのリクエストに応えたものだそうです。

 

「秘密の花園」「天国のキッス」など、ある種宗教的なシュプリーム(至上のもの)テーマから着想を得ての「林檎」だと、松本隆さんは語っています。「花園とか天国とか林檎とか…そういうものは、性的であって、同時に聖なるものだと思う」

 

細野さんは後に「YMOが売れたことで、もう歌謡曲をやっても平気になったんだ。ぼくは、いつも何年早いとか言われてたわけ。でも、何年か早いということは、やっぱり売れないっていうのと同じことだからね。時代の先を行ってたって、別に意味なんてないわけだよね、いつまでも時代と並行していたんじゃしょうがないの。だいたい、どんな音楽家でも、時代とその人の交差点があるんだよ」と語っています。

 

歌詞はどのセンテンスも秀逸なのですが、敢えてキモだとすると

「愛しているのよ かすかなつぶやき 聞こえない振りしてるあなたの 指を噛んだ」

でしょうか。あまりにもさらっと唄うのですっと入ってくるのですが、噛んでますからね(笑)。

 

この楽曲は「分数コード」が多用されていて、独特の「浮遊感」が素晴らしいですね。

 

カップリングの「SWEET MEMORIES」は、サントリーのCMソング。

作詞:松本隆さん、作/編曲:大村雅朗さん。

 

「ジャズっぽい曲で英語が入るもの」「歌い手を匿名にしたい」とのオーダーに応えたのが、長年アレンジャーとして聖子さん、松本隆さんを支えてきた大村雅朗さんでした。

 

完成した際、若松Dも松本隆さんも聖子さんも「ここまで大人な楽曲を唄えるのか?」と不安だったそうですが、そこは天性の歌姫、見事に期待に応えました。

 

松本隆さんの詩も「懐かしい痛みだわ ずっと前に忘れていた」と、大人の女性が過去の恋愛を振り返るストーリーに仕上げてあります。

 

松本さん曰く「ちょっと先に石を投げるんだよ」。等身大の聖子さんの少し先の世界観を常に投げかけることで成長を促し、ファンもそれにドキドキしてついてくる。この楽曲は大村雅朗さんがかなり先に投げた石を掴んで、その結果、関係者の想定以上の反響があり、両A面のシングルとして再リリース。聖子さんのキャリアで最も売れたシングルになりました。

 

1983年10月発売 15th.シングル「瞳はダイアモンド」

 

 

作詞:松本隆さん、作曲:呉田軽穂、編曲:松任谷正隆さん。

 

こちらは聖子さん初の失恋ソング、それも「大人な」楽曲です。前曲がスローだからアップテンポに、とか、こんどはハッピーなのを!とか安直にやらず、掴みかけた世界観をもう少しやってみよう、的な感覚がステキです。

 

初恋でウキウキした少女期を過ぎて、もっと深みのある女性の失恋。

「映画色の街」「あなたの肩から飛び出したシグナル」がいかにも松本隆さんらしい描写ですし、なんといってもキモはサビの

「あぁ泣かないでmemory
 幾千粒の雨の矢たち
 見上げながら
 うるんだ瞳はダイヤモンド」

ですね。一音の無駄のない、百人一首クラスの詩です。

 

吉田拓郎さん曰く「松田聖子の声って泣いてるんだよね」。

 

1984年2月発売 16th.シングル「Rock’n Rouge」

 

 

作詞:松本隆さん、作曲:呉田軽穂、編曲:松任谷正隆さん。

 

化粧品CMのタイアップということもあり、一転して久々にアッパーな楽曲です。

「ピュア(ピュア)リップス」はキャンペーン側のキャッチコピーでしょう。松本隆さんはそれに「Kissはいやと言っても反対の意味よ」という乙女心で応えます。

 

1984年5月発売 17th.シングル「時間の国のアリス」

 

 

作詞:松本隆、作曲:呉田軽穂。ユーミン作曲で唯一、大村雅朗さんが編曲を務めています。

 

1ヶ月後に発売されたアルバム「Tinker Bell」同様、童話・ファンタジーをテーマにしています。

改めて聴くと松原正樹さんのギターと、それに絡むチョッパーベースが気持ち良すぎる一曲です。

 

歌詞のキモは

「誰だって大人にはなりたくないよ
 永遠の少年のあなたが言うの
 シャム猫のぬいぐるみ 抱きしめながらWOWWOW
 叱られた子のように 私立ってた」

でしょうね。「ピーターパン・シンドローム」という言葉が話題なっていた時期でした。

 

1984年8月発売 18th.シングル「ピンクのモーツァルト」

 

 

作詞:松本隆さん、作曲:細野晴臣さん、編曲:細野晴臣・松任谷正隆さん。

 

こちらも「Rock’n Rouge」に続く化粧品(秋の)タイアップソングでした。

 

恋の駆け引きを唄う恋愛ソングで、歌詞に登場する「ピンクのモーツァルト」とは何なのか?と話題になりました。松本隆さんご自身は「ほとんどシュルレアリズムで、これでも売れるんだと思った」と語っておられます。これも意図的にエロティックな隠喩が含まれていますね。

 

「GAMEならルール決めましょ
 傷ついても 傷つけても
 うらみっこなしね」

がキモでしょうか。

 

1984年11月 19th.シングル「ハートのイアリング」

 

 

作詞:松本隆さん、作曲:Holland Rose(佐野元春さん)、編曲:大村雅朗さん。

 

このシングルが「松本隆プロジェクト第1期」のラスト。作曲はニューヨークから帰国間もない佐野元春さんが手がけました。

 

編曲は、佐野さんデビュー当時のアレンジを担当していた大村雅朗さん。佐野さんと大村さんは当時、楽曲の解釈を巡り対立した立場ですが、この楽曲の大村さんアレンジは「サムデイ」などを彷彿とさせるフィルスペクターサウンドを用いて、「聖子さんの曲なのにちゃんと佐野さん」という奇跡的なバランスを保っていて素晴らしい。

 

歌詞のキモは、なんと言っても歌い出しの

「STAY WITH ME 雨が雪に
 変わるわペイブメント
 人影のないカフェの窓 白く煙るの」

でしょう。このワードの羅列だけでも佐野さんの唄声が聴こえてくるのです。

 


第一時 松本隆×松田聖子プロジェクトの終焉

 

この1984年、松本さんは大滝詠一さんのアルバム「EACH TIME」、南佳孝さんのアルバム「冒険王」の作詞を手がけています。

 

松田聖子さんは1983年に主演映画「プルメリアの伝説 天国のキッス」をこなしながらコンサートツアーを3回、1984年にはツアーを4回敢行。

 

その中でこれらのハイクオリティなシングルを季節ごとに年4回、さらにはアルバムも半年周期で年2回という、驚異的過ぎるハイペースで連発しているのです。

 

さすがの松本隆さんも「Rock’n Rouge」の頃には「やる気なくなる時期」を迎え(本人談)、一時失踪したのだとか。それも無理もない話だと思います。

 

松本隆さんはシングル「ハートのイヤリング」と通算10枚目のオリジナルアルバム「Windy Shadow」を手がけた後、松田聖子さんのプロジェクトから一時離脱しました。

 

まさに「日本アイドル史上最高の、奇跡の3年間」と言える季節でした。

 

 

「ラブソングを書く上で常日頃考えているのは、恋愛感情を男と女で分けるからわからなくなっちゃう、ということ。男にも女々しいけれど可愛げのあるところがあるし、女にもやんちゃだったり、男の子をからかうくらいわんぱくな少女がいたりするということを僕は表現したかった。いつも男が強くて女が下、という図式じゃつまらないじゃない。」

松本隆

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