「8・2 猪木vs長州」〜1984 蔵前ラストバウト

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私がリアルタイムに観た昭和の新日本プロレスの中でも、名勝負として鮮烈に記憶しているのが、1984年8月2日、蔵前国技館で行われたアントニオ猪木vs長州力の一戦です。

 

数多く行われた両者のシングル対決で、私はこの試合が最も”好き”なのです。

 

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アントニオ猪木vs長州力、この年3度目のシングル対決

 

1戦目は、4月22日蔵前国技館、正規軍vs維新軍の5対5勝ち抜き戦の大将戦。

アントニオ猪木が卍固めでレフェリーストップ勝ちでした。

 

2戦目は、第2回IWGPリーグ戦、広島県立体育館。

アントニオ猪木が一瞬の隙を突いた逆さ押さえ込みで勝利しました。

 

そして3戦目がこの真夏の蔵前決戦。両国新国技館への移行により取り壊しの決まった蔵前最後の新日プロの興行かつ、サマーファイトシリーズ最終戦でもありました。

 

このシリーズの札幌大会、藤波辰巳vs長州力戦で「試合中にリング下に現れたアントニオ猪木に気を取られた長州が藤波のバックドロップ食らって敗れる」というのが一応の伏線にはなっていましたが、リーグ戦や軍団抗争といった「雑音」のない舞台で、革命戦士として時代の寵児に駆け上がった長州力と新日本プロレスの総帥アントニオ猪木との3度目の一騎討ちの実現は、なんとも贅沢な電撃決定でした。

 

この”切り札カード”が電撃決定したワケ

 

元々、この最終戦ではアントニオ猪木vsデビット・シュルツというカードが予定されていました。

 

シュルツは控え室でのインタビュー中にテレ朝の古舘伊知郎アナウンサーを襲撃したことで有名ですが、チケットがまるで売れず、シュルツの負傷欠場もあって2週間前に急遽変更してこの黄金カードが実現したと言われています。

 

実はこの2日前、7月31日にライバル団体の全日本プロレスが蔵前ラスト興行を行っていています。

 

セミファイナルでジャンボ鶴田がリック マーテルとのAWA世界リターンマッチで奪回に失敗。メインはジャイアント馬場がスタンハンセンのPWFタイトルにチャレンジャーとして挑み、“ジャイアント“スモールパッケージホールドで初のピンフォール勝ちを納め、ベルトを奪還しています。

 

同じ最後の蔵前ということで動員、試合内容で負けるわけにいかない新日本プロレスとして“切り札をきった“という面もあったのでしょう。

 

そして何より、長州力が置かれる環境も微妙な時期でした。

 

”革命戦士”長州力の微妙な立ち位置

 

藤波辰巳への「かませ犬発言」から2年が経ち、狼軍団、維新軍団と勢力を拡大して突っ走って来た長州力でしたが、藤波との抗争もさすがにマンネリの色が見え始め、総大将アントニオ猪木には2連敗と、行き詰まり感がありました。

 

ちなみにこの試合後に実施されたパキスタン遠征では猪木が指示したとされる藤波と長州の唐突なタッグ結成で一悶着あり、「維新軍解体?」とのキナ臭い噂も流れ始めた時期でもありました(さらにはこの後、マシン軍団が登場して1シリーズだけ、維新軍団とも抗争を繰り広げています)。

 

それだけにこの一戦は、暗黙のうちに「維新軍団の存亡がかかった」雰囲気となり、長州力には「絶対に3連敗は許されない」という悲壮感が漂っていました。

 

この試合が名勝負たる所以

 

試合は「叩き潰すプロレス」を敢えて封印した長州力が、じっくりとしたグラウンドの攻防からスタートし、アマレスで鍛えた素地をいかんなく猪木にぶつけます。

 

対する猪木も、この数年前からの糖尿病発症(当時は内臓疾患と公表)以降、ガクッと落ちていたコンディションが嘘のように完全復活。

 

脂の乗った長州力の攻め手をことごとくインサイドワークとテクニックで封じ込み、久々のジャーマンスープレックスホールドまで繰り出し、さすがの底力を見せます(解説の東スポ櫻井康夫さんが「久々に猪木クンが帰って来ましたねぇ!」と絶賛する程)。

 

クライマックスは長州力渾身のサソリ固めを5分に渡って耐え抜いたシーン。敢えて脱力して「受け切る」という風車の理論で、激痛で大汗をかきながら精神力だけで耐え抜く猪木の表情は、古舘伊知郎アナウンサーをして「闘魂のヤドカリ」と評されました。そしてその直後に放った延髄斬りの打点の高さには驚愕します。

総じてグラウンドテクニック、投げ技のキレ、そして試合の組み立て方と、どれをとっても(実は数少ない)長州力のベストバウトじゃないかと。名勝負製造機のアントニオ猪木としても、ベスト10に入る名勝負でした。

 

エンディングはリキラリアートを肩で受けた猪木に対し、トドメを狙った長州力の一瞬の隙を突いたグランドコブラ一閃!

 

https://www.bilibili.com/video/BV1M7411H71E

 

【特別試合60分1本勝負】
〇アントニオ猪木(29分39秒、グラウンドコブラツイスト)長州力●

2戦続けての「クイック」での決着となりましたが、名勝負としての価値は下がるどころか見事なフィニッシュで、勝ったアントニオ猪木はもちろん、負けた長州力の評価もまったく下がらない、これほど観客が納得した決着も珍しい程の完成度です。

 

まさに新日本プロレス、ストロングスタイルの至高の一戦。この年の東京スポーツ、プロレス大賞のベストバウトに輝いたのも当然の名勝負でした。

 

長州力はこの試合の翌月、1984年9月21日に新日本プロレスを退社。ジャパンプロレスを立ち上げ、新天地を全日本プロレスに移します。

 

こうした背景、双方の思惑も含めてこの一戦にはいろんなドラマがあり、さらにそれを試合に見事に結実させた点で、忘れられない名勝負なのです。

 

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