昭和特撮「実相寺昭雄」〜1937-2006 ウルトラマン、セブンの異色作を手がけた奇才

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ガマクジラ、ガヴァドン、テレスドン、ジャミラ、スカイドン、シーボーズ、そしてメトロン星人…個性豊かなウルトラ怪獣の中でも一際異彩を放つのが、「実相寺昭雄監督作品」です。

 

子どものころはそんなこと気にしないで観ていましたが、改めて知ると「なんだか他とは違う、強烈な印象」に残る回は、決まってこの実相寺回なのでした。

 

実相寺 昭雄 氏 1937年3月29日 – 2006年11月29日

 

 

今回は独特の映像表現や撮影技法で知られる巨匠、実相寺昭雄監督のウルトラ作品についてご紹介します。

 


 

実相寺昭雄さんは1937年、東京生まれ。満州で育ち、引き揚げ後にTBSに入社。

 

 

当初は音楽番組やテレビドラマの演出を手がけていましたが、スチール写真を多様したり、唐突な街頭インタビューを挿入したり、美空ひばりを大写しにしたかと思えば超ロングで米粒のように映したり、ラストで突如暗転させて大雪を降らせるなどの前衛的過ぎる演出で上層部と度々衝突。視聴者からの苦情が殺到して干されるなど、問題児として知られていました。

 

そんな演出を「特撮の神様」円谷英二氏は評価し、当時TBSに勤めていた後の円谷プロ社長、英二氏の息子である円谷一氏の勧めでTBS 映画部に異動。そこに籍を置きつつ外注先への派遣という形で円谷プロ作品に演出家として関わることになります。

 

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ウルトラマン

 

第14話「真珠貝防衛司令」

女性の憧れ真珠を食べる醜悪な見た目のガマクジラが登場するこの回は、科学特捜隊のアキコ隊員が人の良いイデ隊員を買い物に連れ回すなど隊員の日常を描くなど、他とは異なるユニークな回。ガマクジラの造形がどことなくユーモラスで、「もっとグロテスクに醜く」して欲しかった実相寺さん的には当時は不満だったとか。

 

第15話「恐怖の宇宙線」

子どもの落書きから現れたガヴァドンが、寝てばかりいるのにウルトラマンに退治され、「ウルトラマンのバカヤロー」と子どもたちに言われるお話。ラストシーンは「お星さまになったガヴァドン」と、新たな怪獣出現を夢見た子ども達のラクガキシーンが俯瞰で捉えられる、絵本のようなストーリーです。

 

第22話「地上破壊工作」

地下4万メートルの世界に生息し、地上への侵出を目論む地底人(目がない)が登場。その尖兵として怪獣テレスドンが登場します。全編にわたりモノクロ シーン、夜間の戦闘シーンなど、光と影の過剰な演出が見どころ。

 

第23話「故郷は地球」

ウルトラマン史上最も悲壮な敵役、ジャミラの登場回。ジャミラは実は母国に見捨てられた宇宙飛行士の成れの果て、同じ人間であることが明かされるシーンは目が眩む光りと色調の描写が強烈。ラストシーンのイデ隊員の独白は文明社会と人間のご都合主義へのアイロニーに溢れています。

 

第34話「空の贈り物」

突然空から落ちてきた、ただ重いだけの怪獣スカイドン。全編を通してユーモラスで、科特隊の面々がカレーライスを横並びで食べるシーンは後の森田芳光監督「家族ゲーム」を先取りしています。慌てて飛び出したハヤタがカレーのスプーンで変身しようとするシーンは余りにも有名ですが、当時はベテラン スタッフ達の逆鱗に触れ、あわや円谷プロから追放されかかったのだとか。

 

 

35話「怪獣墓場」

過去に退治された怪獣達の合同葬儀(仏式)から始まり、亡霊怪獣シーボーズを怪獣墓場に送り返すためにウルトラマンが悪戦苦闘する回。設定からして異色ですが、哀愁漂うシーボーズとウルトラマンの絡みがなんともいえません。

 

これらに共通するのが、「正義の味方 ウルトラマンが悪の怪獣をスペシウム光線で退治する」というオーソドックスな展開を一つも描いていない点です。

 

怪獣が悪で、ウルトラマンが正義と単純に言い切れない、ひねりの効いた考えさせられるストーリーと演出は、シリーズ第1作にも関わらずウルトラマンに深みを持たせ、単なるお子様向け番組ではない、ただならぬ魅力を与えました。

 

一方で、必殺技のスペシウム光線を使わず、勧善懲悪ではない混み入った展開はヒーロー物としての爽快感に欠ける、とされ、当時は否定的な声が多かったようです。ご本人もそれは自覚しており「他の脚本家が王道を書いてくれるから自分はああいうのが作れた」と発言されていました。

 

ちなみに光線を使わないウルトラマンはどうしたかというと・・・ガマクジラとスカイドンは尻にロケット打ち込んで飛ばして爆殺。シーボーズはロケットで宇宙へ飛ばし、テレスドンは投げの連続で撲殺。ジャミラに至っては弱点の水攻めで溺死(?)です。スペシウム光線の方がまだマシなような気も・・・(笑)

 

ウルトラセブン

 

第8話「狙われた街」

タバコに麻薬を入れて販売し、人類同士の信頼を失わせて自滅を狙うメトロン星人と、モロボシ ダンがアパートの一室でちゃぶ台を挟んで会話するシュールなシーンが余りにも有名な回。

海外輸出を目論み「日本的にするな」と言明していたにも関わらずちゃぶ台を登場させた事でまたもや上層部の逆鱗に触れたのだとか。夕陽をバックにシルエットのフラッシュバックで戦うシーン、そしてラストの

「メトロン星人の地球侵略計画はこうして終わったのです。人間同士の信頼感を利用するとは恐るべき宇宙人です。 でも、ご安心下さい。このお話は遠い遠い未来の物語なのです。え、何故ですって? 我々人類はいま、宇宙人に狙われる程、お互いを信頼してはいませんから」

というシニカル過ぎなナレーションも含め、いまでは名作中の名作と言われるようになりました。

 

第12話「遊星より愛をこめて」

スペル星人が原爆症によく似た症状と描かれ、後の少年誌で「ひばくせい人」と紹介されたことで後から差別問題として大騒ぎになり、自主封印され、幻の欠番作品となったいわくつき過ぎる回。(私はとあるマニアの方からビデオを観せていただきましたが、内容はそれほど目くじら立てるようなものではない印象です)

 

第43話「第四惑星の悪夢」

ダンとソガ隊員が自動操縦ロケットのテスト飛行中に遭難。目覚めた2人がたどり着いたのは、地球と見紛うほどソックリだがロボットがすべてを支配する「第四惑星」だった…当時話題の「猿の惑星」に影響を受けたとも言われ、現代社会の急進的な思考に警鐘を鳴らすウルトラセブンの名作の一つとされます。

 

第45話「円盤が来た」

主人公がダンではなくアマチュア天文家のフクシンくん、サイケなペロリンガ星人、特撮史に残る「変身も戦闘シーンも全部省略」という冒険など、語る点盛りだくさんの異色作。なんだか落語を見てるかのようで、セブン終盤の展開の中でも異彩を放っている作品です。

実は実相寺さんはこの時に「宇宙人15人、怪獣35体が登場する忠臣蔵みたいな話」を企画していたそうですが、特撮にカネがかかりすぎるとボツになったそうです。そもそも「ちゃぶ台事件」で半ば干されていた実相寺さんがまた呼ばれたのは「金をかけずにそれなりの画が撮れる」という理由だったそうでして…。ウルトラセブンはシリーズ終盤、予算の枯渇に喘いでいました。

 

それで怪獣も星人も出ない43話、宇宙人1人で戦闘シーンもない45話、となる訳ですが、それらが後年「セブン屈指のハードSF作品」と評価されてるのはスゴイですね。

 


 

後に「実相寺マジック」と呼ばれるその前衛的な演出は影響を受けたと公言するスタッフがいる一方、当時の上層部、特撮班と方針を巡り揉めに揉めた逸話が多く残されています。

 

そんな実相寺作品はマニア向け書籍が刊行され始めた1978年頃の第3次ウルトラブームごろから再評価の声が高まり、1979(昭和54)年には実相寺監督作品を再構成した「実相寺昭雄監督作品ウルトラマン」が公開されました。

 

 

その後、実相寺さんは特撮関連では「怪奇大作戦」(1968)や「シルバー仮面」(1971)、90年代の「ウルトラマンティガ」「ウルトラマンダイナ」「ウルトラマンマックス」にも関わられ、ファンを狂喜させました。

 

そして2006年、69歳でお亡くなりになりました。

 


 

櫻井ひろ子さん(科学特捜隊 フジアキコ隊員)が語る実相寺監督

「実相寺さんはほんと変な人よ(笑)。当時、スーツを着ている人が現場に入るのは珍しかったんですが、実相寺さんは当時現場を干されていたんです。後年、その理由を聞く機会があって、どうしてですか?って聞いたら、TV番組で美空ひばりさんの耳の穴とか口の中を撮影して怒られたと。だから何で撮ったの?って聞いたら、ずっと撮っているうちに撮りたくなっちゃったんだって(笑)。とにかく変わった人でしたけど、スタッフからは慕われていました。人の懐に飛び込むのが上手い人。あれだけの鬼才だと現場がなかなか動かないけど、実相寺さんとはみんな面白がってやっていました。実相寺さんは(円谷)英二監督の懐にも飛び込んでいましたから」

 

 

庵野秀明氏が語る実相寺監督

「自分にとって、岡本喜八監督もそうですが、実相寺さんの作品を子供のころから観ていなかったら、『シン・ゴジラ』はありませんでした。日常風景のはずなのに、非日常というか、異世界的な映像にしたかった。この感覚を僕が最初に覚えたのが実相寺(昭雄)さんの作品でしたね。実相寺さんの『ウルトラマン』で突然変な画が出てくる回があるんです。子どもの頃は観ていてもよくわからなかったんですけど、それが自分の中ではずっと引っかかっていて。アマチュア時代はもちろんお金がないし、セットもそこまで広くない。それを誤魔化すアングルを撮ろうとすると、実相寺さんと同じ発想になっちゃうんです。画面手前にデカい物を置いてその隙間から撮る、とか。そうるすと画に力が入るんです」

 

 


 

<参考書籍>

「実相寺昭雄叢書01 闇への憧れ」(復刊ドットコム)
「実相寺昭雄叢書02 実相寺、かく語りき」(復刊ドットコム)
「星の林に月の舟 怪獣に夢見た男たち」(大和書房)

 


 

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