「非情のライセンス」〜1973-1980 天知茂のニヒル&ダンディな魅力 昭和 刑事ドラマ

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今回はリクエストにお応えして、昭和刑事ドラマの名作「非情のライセンス」をご紹介します。


 

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●「非情のライセンス」とは

 

俳優 天知茂が主役の、NET(現テレビ朝日)系列毎週木曜22時枠で放送された刑事ドラマ。

第1シリーズは1973(昭和48)年春〜1974(昭和49)年春、全52話。

第2シリーズは1974年秋〜1977(昭和52)年春、全124話。

第3シリーズは1980(昭和55)年春〜冬、全26話。

制作はNET/東映、原作は生島治郎氏による小説『兇悪』シリーズ

出演は天知茂さんのほか山村聰さん、渡辺文雄さん、葉山良二さん、多々良純さん、宮口二郎さん、梅津栄さん、岩城力也さん、左とん平さん、江波杏子さん、篠ひろ子さん、財津一郎さん、柳生博さん、小野武彦さんなどの面々。

シリーズにより登場人物が異なります。

 

 


 

●「非情のライセンス」の思い出

 

本放送時、この番組の存在は知ってましたし、よく再放送もやってた気がしますが、ぶっちゃけ、まったくもって観たいと思いませんでした。とても子どもが観るような雰囲気ではなく、「観てはいけないダークサイド」の香りがプンプンしてました。

 

にも関わらず、妙に気になり、強く記憶に残っているのは、なんといっても主役の天知茂さんの存在感がハンパないからに他なりません。

 

天知茂さんはいまでは絶滅した“ニヒル““ダンディ“タイプの二枚目で、鋭い眼光と、眉間の皺がトレードマーク。

1931(昭和6)年生まれですので放送開始の1973年で42歳とは思えぬ貫禄です。

“マダムキラー”の異名を持つほどですから、当時はコレが二枚目で、主婦層はメロメロによろめいた、のでしょう。

 

いまでは死語となった“ニヒル“とは「虚無や虚無的、また暗い影のある」。まさに天知茂さん演じる会田刑事のためにあるような言葉です。

さらに“ダンディ“とは「身なり・巧みな言葉づかい・余裕ある趣味といったものを特に重視しながら、あくまで無頓着を装ってそれらを追求し、自らに陶酔する男や女の精神」なのだそうで。でもダンディな女性、とは言わないですよね。日本語で言えば「男の美学」ってとこでしょうか。


 

●天知茂という俳優

 

1931(昭和6)年生まれ、高校卒業後に松竹に入るも目が出ず、1951(昭和26)年に第一期新東宝スターレットに選ばれ移籍。

新東宝とは、終戦翌年の1946(昭和21)年に起きた東宝の労働争議から生まれた新興映画会社です。経営者側にも労働組合側にもつかないと立ち上がった俳優・大河内傳次郎に賛同した、長谷川一夫、黒川弥太郎、入江たか子、藤田進、花井蘭子、山田五十鈴、原節子、山根寿子、高峰秀子の十大スターが中心となって設立されました。

 

天知茂さんはその後も長く大部屋俳優で苦労するも、1959(昭和36)年、主演映画「東海道中四谷怪談」が高い評価を得ます。

 

その後、大映と契約し勝新太郎「座頭市」、田宮二郎「犬シリーズ」、市川雷蔵「眠狂四郎」などで好演。

1968年(昭和43)には三島由紀夫の依頼により、美輪明宏主演舞台『黒蜥蜴』(原作:江戸川乱歩/脚色:三島由紀夫)で明智小五郎役を演じ、これが当たり役となります。

 

そしてNET(現テレビ朝日)で本作「非情のライセンス」と共に土曜ワイド劇場『江戸川乱歩の美女シリーズ」の明智小五郎役で大ブレイク。この当時は明智小五郎=天地茂さんでした。

 

1985(昭和60)年、くも膜下出血により54歳の若さで亡くなりました。

 

個人的には田宮二郎さんと天知茂さんが「背広(スーツではなく)が似合う昭和の二枚目」というイメージでしたので、かつて共演していたことに感慨深いものがあります(しかもその時の天知茂さんはコミカルなしょぼくれ刑事役なのでした)。田宮二郎さんはバタ臭い、洋風二枚目でしたが天知茂さんは時代劇顔の和風二枚目。どちらも目力がハンパありません(笑)。いまでは田宮二郎さん、天知茂さん的なルックスの「オトナの俳優」は絶滅してしまいましたね。

 


 

●1973(昭和48)年の刑事ドラマ

 

前年から放送スタートした日本テレビ「太陽にほえろ!」、フジテレビ系「トリプル捜査線」、TBS「刑事くん」、変わり種では石ノ森章太郎先生&東映特撮ヒーロー番組の「ロボット刑事」(フジテレビ)などもありました。

 


 

●とことんハードボイルド

 

この番組の特徴は、なんと言っても主役を演じる天知茂さんのニヒル、渋さ、ハードボイルド。そして内容もひたすらに暗く、重いテイストのストーリーです。

天知茂さんが演じる主人公、会田健は警視庁特捜部の刑事。広島出身で両親を原爆で亡くし、自身も被爆体験を持ちます。さらには親代わりの実姉が在日米軍兵に眼前でレイプされその後自殺した…という壮絶な過去を持ちます。

 

それ故に悪を憎み、悪を根絶することだけが生きがいの一匹狼のアウトロー刑事となり、容疑者を締め上げ、徹底的に追いつめるためなら手段を選ばず、組織にも逆らい、悪者は躊躇なくぶち殺す(笑)という信条…

…どうですか。「太陽にほえろ」なんかとはまるで正反対の、ひたすら陰気で辛気臭い、ハードな物語になるのも当然ですね(笑)。

 

にも関わらず、本作は「大人向け刑事ドラマ」として人気を博し、3シリーズが制作され、平均視聴率も16%台と健闘しました。

その理由は…ダンディな風貌で女にモテモテ、毎回ゲスト女優とのベッドシーンがお約束、という“お色気要素“があったから、とも言えるでしょう。

 

ちなみに会田刑事、第1話は刑務所内で内偵捜査しているところで始まり、シリーズ最終回はとうとう、ホントに刑務所にブチ込まれて終わります(笑)。

 


 

 

刑事ドラマは大きく、「アクション」路線と「ヒューマンドラマ」路線に二分されます。そしてさらにシリアスとコメディに分かれます。

 

ワケアリ、ハミ出し者の刑事ばかり集めた「警視庁特捜部」なる設定はこの後、「特捜最前線」(1977 昭和52年-)などにも引き継がれる定番です。「特捜最前線」もヒューマン路線でひたすら暗かったですが、それが「大追跡」(1978 昭和53年-)になるとハチャメチャなアクション、コメディ路線で面白くなる(こっちは警視庁ではなく所轄ですけどね)。

 

刑事ドラマはそうやって進化して来たんだなぁ、と感じます。

 

それでは、天知茂さん自らが歌う主題歌「昭和ブルース」を聴きながらお別れです。

渋すぎて卒倒しますよ(笑)

コメント

  1. 大石良雄 おおいしよしたか 本名 より:

    拝啓 サイトヘッド様、ご訪問の皆様にはよろしくお願いいたします。
    *「昭和ブルースも印象的でしたが、何よりテーマ曲の素晴らしさが忘れ難い」
     この巨匠「渡辺兵夫先生作曲のテーマ曲」は本当に印象深く忘れがたい魅力を放つ昭和TVドラマテーマ曲の傑作です。wiki等では「作編曲が渡辺兵夫先生」となっていますがこれは明確な誤りで、あの影の大巨匠「松山祐士先生」が担当しておられます。以前松山先生に単独インタヴューさせてい叩いた際、「貴男は実に良く研究している」とお褒めの言葉を頂戴し本当に嬉しかったのですが、その際「メーンテーマを担当する不思議な民族楽器」が解らずお尋ねいたしましたら「あれはハンマーダルシマ」であるとご教示頂き、当時のプレーヤー名も教えて頂きました。
    ご承知の通りこのハンマーダルシマ=チンバロンは非常に不思議な印象的な、何と言いますか「乾いた中にもおセンチで忘れ難い音色」を出す素晴らしい民族楽器です。主にハンガリーなどの民族舞踊などに用いられますが、、、、実はこのハンマーダルシマを「実に効果的に使いまくっておられた大家」こそがあの「大巨匠 木下忠司先生」だったのですが、皆様お気づきになられましたでしょうか? 実は「水戸黄門 桃太郎侍」等のBGMサントラには隠し味として実に効果的にのハンマーダルシマが使われていたのです。よくよくじっくりとお聴きになってみて下さい。木下忠司先生の素晴らしさが改めて実感されます。
    この「非常のライセンステーマ曲」に話を戻しますと、渡辺兵夫先生のメロディー=なんとなく「エルビンボ オリーヴの首飾り」を思わせる様な奇麗なメロディは、後半女性ヴォーカルに引き継がれ、乾いたオルガンや拍子木に支えられ忘れ難い印象を与える名曲ですが、やはり何といっても「地獄の才能実力を持つ素晴らしいアレンジャー松山祐士先生のアレンジがあってこその名曲」だったと言えましょう。松山先生は実は数々の変名やペンネームを持たれ、若くして渡辺兵夫先生とペアズワークを組まれ、おそらく初の「作曲 編曲の垣根ボーダーラインを越えて、作曲の下請け程度の印象しか持たれない日本のアレンジャーの低い地位を徹底的に改めさせ、作曲と同一の地位にまで編曲家のレベルを高めた功績は素晴らしいものでした。
    一例として「アニメガンダム」等のBGMサントラは、まさに作曲メロディメイク&編曲オーケストレーションがまさに同一同レベルであり、下請けなんてぇ言葉は死語になってしまった。
    それほど松山祐士先生とは素晴らしい、悪魔の才能実力を持つ天才でした。
    *「主役 天地茂の素顔 実は天下の一大三枚目!!」
     本当です、このニヒルで女殺し?の超二枚目こそ、自宅に帰れば「超三枚目」だったのです。これは証拠保全として、当時フジテレビ系列でオンエアされていた「オールスター家族対抗歌合戦」に天地茂さんご一家とお兄さん周辺が総手で出演された際、ご子息が「表舞台ではニヒルな二枚目だが、家に帰れば徹底した三枚目、、、何時もパンツ一丁で飼っている犬に嚙みついたり? まぁ信じられない素顔」だった様です。その証拠にお兄さんもまぁ、、家族で「アラジンの完全無欠のロックンローラー」なんかを熱唱し、もう大爆笑でしたね。
    何かお酒もたしなまず美食家だったとお聞きしました。まぁ「ニヒルな悪役や天下の二枚目が、実は全然違ってた」なんてぇ、良く聴く話で、まぁ自宅に帰ってからも二枚目で押し通すのは、、、、辛いでしょうね。某お笑いタレントなどは「うちでうけても銭金にならねぇから」と公然と言ってた人もおりましたからね。
    早くに亡くなられ「狼男とサムライ」なんてぇ遺作が後に公開されましたが、美人薄命ならぬ「真の二枚目薄明」は本当かもしれませんね。 素晴らしい役柄と印象に感謝して合掌 敬具

  2. 中島 哲 より:

    今、こん作品がリメイクされたら、私が想像しますに、主人公は玉木宏、課長は三浦友和か榎木孝明っちゅうたとこでせうか?

  3. 1958年生まれのおじさん より:

    「徹子の部屋」で語られた天知茂さんのエピソードを紹介します。戦時中空襲に遭った天知さんが防空壕に逃げようとしていたら友人に呼ばれたのでそちらの防空壕に入ったところ、空襲が過ぎて出てきてみると初め入ろうとしていた防空壕には爆弾が直撃して中にいた方は全員亡くなっていたとのこと。そんな強運の天知さんが54歳で亡くなるとは…田宮二郎さん・天知茂さん、大好きだったダンディな役者さんは二人とも早逝でしたね。それにしても「絶滅したニヒル・ダンディタイプの二枚目」とは絶妙な表現ですね(笑)

    • MIYA TERU より:

      そうですか、天知茂さんにそんなエピソードが・・・昭和6年生まれですもんね。ありがとうございます。当時のこのお二人が今では自分よりも歳下、というのがどうにも信じられません(笑)

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