仮面ライダーとゴレンジャー 〜 1975 関西TV局「腸捻転解消」ネットチェンジ

※当サイトで掲載している画像や動画の著作権・肖像権等は各権利所有者に帰属します。

ID:13581

 

ネットチェンジとは、「放送局がそれまでの系列から異なる系列に変わる」こと。

 

時代と共に生じた新聞社などの「資本系列」と「全国TVネットワーク系列」のズレ、さらに地方において複数のテレビ系列を1局が放送する「クロスネット」を解消するのが目的です。

 

中でも

1975(昭和50)年の関西(近畿)圏での「腸捻転解消」ネットチェンジ

はインパクトが大きく、当blogでもこれまで、

 

仮面ライダーアマゾン

仮面ライダーストロンガー

秘密戦隊ゴレンジャー

 

回などで、たびたび取り上げました。

 

しかし、これが何度解説を読んでも複雑でややこしく、なかなか理解できません。

 

そこで今回は、規模的にも史上最大、数々の人気番組にも大きな影響を与えた本件について、なるべく分かりやすく解説します。

 

ネットチェンジ

 

スポンサーリンク

日本のテレビ局で行われた主な「ネットチェンジ」

 

日本のTV史において、このネットチェンジは何度か行われています。

 

⚫︎福岡 1964年10月1日

TNCテレビ西日本:日本テレビ系列→フジテレビ系列

 

⚫︎中京 1973年4月1日

NBN名古屋放送(現メ〜テレ):日本テレビ系&NETのクロスネット→NET(現テレビ朝日)系列

CTV中京テレビ:独立基本の日本テレビ系準ネット局→日本テレビ系単独ネット

 

⚫︎関西 1975年3月31日

ABC朝日放送:TBS系列→NET(現テレビ朝日)系列

MBS毎日放送:NET系列→TBS系列

 

⚫︎青森 1975年3月31日

ATV青森テレビ:NET系列&TBS系列のクロスネット→TBS系列単独ネット

 

⚫︎長野 1991年4月1日

TSBテレビ信州:テレビ朝日系列&日本テレビ系列のクロスネット→日本テレビ系列単独ネット

 

⚫︎山形 1993年4月1日

YTS山形テレビ:フジテレビ系列→テレビ朝日系列

 

 

史上初のネットチェンジが福岡だったのは知りませんでした。私は1970(昭和45)年福岡生まれですが、モノゴコロついた時にはすでにTNCは、モロ「フジテレビ系列」のイメージ。当初は日本テレビ系列だったというのは、想像もできません。

 

中でも、もっともインパクトのあったネットチェンジが、本題である1975(昭和50)年に関西圏で起こった朝日放送と毎日放送のTVネットワークがまるごと入れ替わる、「腸捻転ネット解消」でした。

 

「腸捻転」はなぜ生まれたのか?

 

この話を正しく理解しようとすると、関西のTV局開局当時まで遡らなければなりません。放送局と新聞社の名前がたくさん出てきて実にわかりづらいため、なるべく簡略化して、解説します。

 

1956(昭和31)年

西日本初の民放TV局として「OKV大阪テレビ放送」開局。

当時は、

・新日本放送(後の毎日放送ラジオ)・毎日新聞・朝日放送ラジオ・朝日新聞の4社相乗り

・日本テレビ系列とラジオ東京(TBS)系列のクロスネット局

として、堂島でスタートしました。

 

1958(昭和33)年

大阪に日本テレビ系列の「よみうりテレビ(YTV)」が誕生。 10Ch

 

関西資本が「関西テレビ(KTV/カンテレ)」を設立。 8Ch

翌年、東京でフジテレビが開局し、系列を組むことに。

 

 

これにより「OKV大阪テレビ」は、TBS系列となりました。

 

その後、関西地方における(第4放送局の)「TV放送チャンネル新規割り当て」があり、それまでラジオ単営局だった朝日放送と、新日本放送は毎日放送と社名を改めてそれぞれ、新規TV開局を目指して免許を申請。

 

この際、国から「どちらかが大阪テレビを引き取ること」が免許交付の条件、と通告されます。

このときの決め方について、「くじで決めた」「くじの末にじゃんけんで決めた」「事前に決まっていた」など諸説ありますが、結論として、朝日放送が大阪テレビを引き取ります。

 

1959(昭和34)年

毎日放送(MBS)が新規TV局として開局 4Ch

 

朝日放送(ABC)大阪テレビと合併して新規TV局を開局 6Ch

 

このとき、朝日放送(ABC)はTBS系列に。

一方、毎日放送(MBS)は、TBSやフジテレビ系列への加盟を狙うものの頓挫。NET(現 テレビ朝日)系列に収まりました。

 

これがのちの「腸捻転」のはじまりです。

 

 

 

腸捻転解消を目論む朝日新聞社

 

1960年代に入り、「テレビ局の全国ネットワーク」が徐々に確立されていく中で、新聞社と東京キー局が連携を強化し、地方局はその傘下に「系列」として組み込まれていきました。

 

その結果、東京では

日本テレビ NNN 讀賣新聞社

フジテレビ FNN 産経新聞社

そして

TBS JNN 毎日新聞社

NET ANN 朝日新聞社

という、今では常識のカタチが完成。

*建前上はニュースネットワークと新聞社は別モノとされていますが、分かりやすくしています

 

NETにはもともと日本経済新聞社の資本が入っていましたが、最終的に日経はNETを手放し、代わりに東京12チャンネルがあてがわれました。

 

ここで朝日新聞社が狙ったのが、ライバルである毎日・TBS系列の準キー局となっていた、大阪の「朝日放送(ABC)」でした。

 

朝日新聞社は、TBS系列になっている「朝日放送(ABC)」を自局のNETネットワークに組み入れ代わりに「毎日放送(MBS)」をTBS系列に渡すことを目論みます。コレが俗にいう「腸捻転解消」です。

 

しかし。

 

当時、TBSのJNN系列はラ・テ兼営の地域一番局を中心に25局。一方のNETは開局時は教育専門局だったため、ANN系列はクロスネット局を含めても8局。1/3しかありません。

 

朝日放送(ABC)側としては、まだ弱小局で、人気番組も少なく視聴率も見込めないNET系列は眼中にありません。「このまま(人気の高い)TBS系列でいたい」と朝日新聞社に反抗の姿勢を示します。

 

一方で、NET系列であった毎日放送(MBS)は、元からTBS系列に入りたかったこともあり、この動きを歓迎しました。

 

その後、この件は新聞社、放送局の上層部に留まらず、多くの政治家を巻き込む大騒動に発展。中でも当時電波行政を掌握する郵政大臣・田中角栄は、キーパーソンの1人でした。

 

 

各社および権力者の意地とメンツをかけた紆余曲折の末、朝日新聞社のパワーの前に、朝日放送が屈することで決着。背景には「有力な政治家からの強い働きかけがあった」とも噂されました。

 

この際、間接的に影響したのが1973年の「ウォーターゲート事件(当時のニクソン大統領はTV局に圧力を掛けるも、新聞メディアがスキャンダルを暴露したことで失脚)」だと言われています。

 

 

 

ネットチェンジの影響

 

腸捻転解消ネットチェンジは、1975(昭和50)年4月1日に実行されました。各社の部長クラスでさえ記者発表の前日に知らされるという”青天の霹靂”で、切り替えのための準備期間はわずか4カ月しかなく、現場の調整はかなりの修羅場だったと言われています。

 

 

東京の番組をそのまま放送するだけでなく、自局での番組制作も多く手がける「関西準キー局同士の系列チェンジ」ということで、数々の人気番組の放送局が変更になり、視聴者は混乱しました。

 

 

「先週まで(帯番組は昨日まで)TBSで放送されていた色々な番組が、いきなり今週(今日)からテレビ朝日の番組になる」と想像すれば、当時の関西圏の視聴者の戸惑いが、少しは理解できるでしょうか。

 

さらには毎日放送(MBS)の「アップダウンクイズ」、朝日放送(ABC)の「はじめ人間ギャートルズ」など、放送時間の変わらない番組もあったものの、両局が制作する番組の多くは、放送の曜日や時間帯まで移動しました。

 

 

腸捻転解消の被害者?「仮面ライダーアマゾン」

 

仮面ライダーシリーズ4作目の仮面ライダーアマゾンは、4クール1年放送があたりまえの時代に、1作だけ全24話という異例の短さのため、よく「腸捻転解消のネットチェンジのせいで、途中で打ち切られた」と言われたりしますが…。

 

 

 

いまではこれは誤りで、「スタート当初からネットチェンジを見越して24話の予定だった」というのが、通説になっています(当時の新聞テレビ欄の新番組紹介で「全24話」と紹介されています)。

 

それはさておき、「仮面ライダー」シリーズは1作目から大阪毎日放送制作、東京ではNET(現テレビ朝日系)で放送されていましたが、それはこの「仮面ライダーアマゾン」が最後となりました。

 

 

 

次作の仮面ライダーストロンガーからは、毎日放送制作、TBS系列で放送、となりました。

 

 

「秘密戦隊ゴレンジャー 」誕生は、腸捻転解消ネットチェンジのおかげ?

 

そしてその結果、ドル箱の「仮面ライダー」シリーズを失ったNET(現テレビ朝日)系は、穴埋めとして、別の特撮ヒーロー番組の企画を東映に求めます。

 

そして生まれたのが、現在の「スーパー戦隊シリーズ」につながる秘密戦隊ゴレンジャーでした。

 

 

この時の経緯はこちらの記事で解説していますが、もともとは「5人の仮面ライダー」が活躍する企画だったそうです。

 

「パネルクイズ アタック25」が誕生

 

長寿番組となった「パネルクイズ アタック25」も、この腸捻転解消がきっかけで誕生した番組でした。

 

 

ネットチェンジの約1年前、1974(昭和49)年4月スタートのクイズ番組「東リクイズ・イエス・ノー」が毎日放送制作、NET系列放送でスタートしますが、ネットチェンジのために75(昭和50)年3月末で終了。

 

スポンサーの東リが「同じ児玉清司会のクイズ番組の続行」を希望したため、新たに朝日放送制作、NET系列放送で始まったのが、この「パネルクイズ アタック25」でした。

 

当番組は2021年9月26日まで続く長寿番組となり、現在はBSJapannextで「パネルクイズ アタック25 Next」として放送されています。

 

その他、系列が変更になった人気番組

 

その他、系列が変更になった人気番組としては、

 

朝日放送(ABC)制作、当初はTBS系列で放送されていた

「新婚さんいらっしゃい」

「シャボン玉プレゼント」

「はじめ人間ギャートルズ」

「必殺シリーズ」

「夫婦善哉」

などが、NETテレビのネットワーク(ANN)に引き継がれました。

 

 

逆に毎日放送(MBS)は、それまで朝日放送で土曜夜8時に高視聴率を叩き出していた超人気番組

「8時だョ!全員集合」

の放送権を獲得。

 

それに対しNETは月曜夜8時に

みごろ!たべごろ!笑いごろ!

を翌年からスタート、人気番組となりました。

 

また、毎日放送は

「寺内貫太郎一家」

「水戸黄門」

「ありがとう」

などTBSの超人気ドラマも獲得。

 

 

毎日放送が制作する

「アップダウンクイズ」

は、放送開始からネットチェンジまではNET系列で放送、ネットチェンジ後はTBS系列に変わりました。

 

また、毎日放送は東京12チャンネルの経営に参画しており、ネットチェンジ以降も継続。ネットチェンジ前から放送していた東京12チャンネル制作の

「大江戸捜査網」

「プレイガール」

などを番組購入の形に変更し、引き続き遅れネットで放送継続させました。

 

また、それまで関東では東京12チャンネルで放送されていた

「ヤングおー!おー!」

は、ネットチェンジ後はTBSテレビ系になり、初回が「300回記念」として放送されました。

 

 

 

その後のANNネットワーク拡大運動

 

こうして解消された腸捻転。ABCを手に入れたNETはそれだけに留まらず、1977年4月1日、全国朝日放送株式会社に社名変更、略称を「テレビ朝日」に改めます。

 

そして、1987年から約10年にわたる「ANNネットワーク拡大運動」を展開しました。

 

当時のテレビ朝日は「ニュースステーション」「ドラえもん」「暴れん坊将軍」「土曜ワイド劇場」などの人気番組で高視聴率を稼ぐも、系列のフルネット局は全12局しかなく、残りは他局とのクロスネット局。これは他のNNN(日本テレビ)、JNN(TBS)、FNN(フジテレビ)系列ネットワークに比べて脆弱で、イベントや事件事故報道の際などでも、非常に不利でした。

 

そこで「10年で10局作ろう」を合言葉に、ネット局増強を推進。折りしも国が進める「全国4局化構想」とも相乗りして、最終的には新設11・編入1の合計12局が加わり、全24局のANNネットワークとなりました(現在は26局)。

 

 

ちなみに・・・ANNのAは「アサヒ」ではなく「オールニッポン」なのです。

 

腸捻転解消ネットチェンジがもたらしたもの

 

この腸捻転解消ネットチェンジは正解だったのか、悪行だったのか。その功罪はいまも議論があります。

 

ネットチェンジによって放送局が拡大した番組もあれば、その逆もあり、中にはこの影響で打ち切られた番組も少なくありませんでした。

 

俯瞰してみると、当時はぜい弱だったANNネットワークが強化され、教育専門局だったNETから発展したテレビ朝日はその後、人気番組を量産して、いまでは視聴率でも日本テレビと1位を争う人気局になりました。逆に、当時民放の雄として数々の人気番組を量産していたTBSは3番手、4番手の位置となり、長期的に見ると弱体化した印象です。

 

そして、問題の本質はそのレベルではありません。

 

全国紙とTVキー局、そして地方局の結びつきが強くなると、特定少数のメディアによる世論の支配につながり、多様な意見が表明されるべき民主主義の観点からみてどうなの?と疑問視する声があります。

 

また、この騒動の際に新聞社が政治家に働きかけを行い、結びつきが強くなったことで、本来権力を監視する役割のハズのマスメディアが死んだ、と主張する声もあります。

 

一方で、優れたコンテンツ制作や、すばやくきめ細かなニュース報道のためには企業規模のスケールも必要であり、事業運営として系列強化は当然の行動、という見方もあります。

 

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました