「三菱銀行人質事件」〜1979 世間を震撼させた昭和の猟奇立てこもり事件!

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1979(昭和54)年1月、三菱銀行北畠支店に猟銃を持った男・梅川が押し入り、客と行員30人以上を人質に42時間に渡り籠城した銀行強盗・人質・猟奇殺人事件が発生。TVは連日、現場の緊迫した映像をお茶の間に伝え、日本中がその様子を固唾を飲んで見守りました。

女性行員を全裸にして人間バリケードを築く、行員同士で耳を削ぎ落とさせるといった残虐かつ猟奇的な犯行と凶暴性、最後は警官隊の突入で犯人が死亡する幕引きも含め世間に与えた衝撃は大きく、数多くの関連本や、犯人を題材にした映画も作られました。

 

事件から40年以上が経過した今なお、「立てこもり」と聞くと思い出す人も多い、昭和の大事件です。

 

 

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事件の概要

 

1979(昭和54)年1月26日。梅川昭美(うめかわあきよし)が、大阪市住吉区の三菱銀行北畠支店に銀行強盗目的で侵入。客と行員、40数人を人質として立てこもり、警察官2名と支店長と行員、計4名を射殺。国内での人質事件で初の人質に死者が出た事件となりました。

 

大阪府警察本部は投降するよう交渉を続けましたが、発生から42時間後の1月28日、府警本部警備部第2機動隊・零中隊(現在のSAT)が梅川を射殺して幕引きとなります。

 

日本国内で発生した人質事件で犯人射殺で解決した事件は1970(昭和45)年5月12日の瀬戸内シージャック事件、1977(昭和52)年10月15日の長崎バスジャック事件、本事件の計3件のみ。これ以降も現在までありません。

 

事件発生

 

1979年1月26日、梅川は帽子、黒のサングラスにマスク姿で銀行に入ると、猟銃を天井に向け2発発砲。そして、非常電話で通報しようとした行員を射殺します。

 

梅川は現金5,000万円をカバンに入れるよう行員に指示。その隙に外に飛び出した客が、偶然近くにいた警察官に知らせ、事件が発覚しました。

 

すぐにパトカーが銀行に到着、2名の警察官が行内に入りますが、梅川はそのうち1名の警官を射殺。

 

住吉署は付近の6警察署と共に車両168台、人員720人で現場を包囲。

 

対する梅川は銀行の出入口を封鎖し、ここから人質を取った長時間に及ぶ「立てこもり」が始まりました。

女性行員全裸!耳そぎ!猟奇性が話題に

 

この事件が世間を震撼させたのは、その猟奇性でした。

 

梅川は支店長を射殺したあと、女子行員18名を全裸にさせ、男子行員は上半身だけ裸に。自らは支店長席に陣取り、その周りの机の上に全裸の女子行員を座らせ、3人の女性行員を周囲に立たせて「人間バリケード(肉の壁)」を築きます。

 

梅川は銃口を1人の背中に突き付けたまま「この銃は国産やが最高級や。すごい威力やで。」と凄み、これら人質はトイレも行かせず、カウンターの外で済ませるよう命じます。

 

また、梅川は金のありかや銀行の構造を訊ねた行員が曖昧な返事をしたことで激怒し発砲。撃たれた行員は右肩に被弾し、重傷を負います。すると梅川は別の男性行員に持っていた折り畳みナイフを渡し「とどめを刺せ」と命じます。命じられた行員が機転を利かせ「もう死んでいます」と答えると「そんなら耳を切れ」と命じ、行員は「すまん…」と呼びかけつつ左耳を半分切り落としました。

 

耳を切られた行員は後に「切られるときに声を出したら同僚も殺されると思い、必死になってこらえた」「よう思い切ってやってくれたなと。おかげで助かったんやで」と語っています。

 

これらの梅川の猟奇的な残虐行為は当時、週刊誌などの格好のネタとなり、長くセンセーショナルに報道されました。また、1976(昭和51)年に公開されたイタリア映画「ソドムの市」がヒントになったとも言われています。

TV視聴者の反応

 

夕食にサーロインステーキ400gとワインを差し入れさせ、行員に毒見をさせるなどやりたい放題の梅川の行動は、TVにより全国に中継され続けました。

 

全国の視聴者からは大阪府警に抗議の電話が殺到。「催涙弾をブチ込め」「差し入れのカレーに睡眠薬を混ぜろ」「暴走族だが防弾チョッキを貸してくれたら決死隊を集める」などの声が寄せられ、実際に現場に突入しようとして機動隊に制止される酔っ払いも現れました。

膠着から強行突入へ

 

警察は銀行の壁に穴を開け内の様子を伺いますが尚も膠着状態が続き、日付けが変わります。

 

翌日の1月27日、警察は梅川の母親による電話説得を試みますが失敗。警察は母親に手紙を書かせ、それを読んだ梅川は女性行員に服を着ることを許し、周囲に「母親を楽にさせたかった」と漏らしたと言われています。

 

その後、梅川は行員に自身の借金の返済に行かせ、流れ弾などで負傷した人質など数人を解放。

 

そしてさらに日付けが変わった1月28日。

 

大阪府警は「人質の体力、気力の限界」と判断し、大阪府警察本部警備部第二機動隊・零(ゼロ)中隊(現在のSATに相当する武装警察組織)が突入に向け備えます。

そして午前8時41分。7名の零中隊員が銀行内に突入、合計8発を発砲。そのうちの3発が梅川に命中。

 

搬出時に、撃たれた梅川を載せた担架を持つ警察関係者がつまずき、地面に叩きつけられた梅川の血だらけの顔が、スローリプレイで繰り返しTV中継されたのを鮮明に覚えています。

 

梅川はこの後、警察病院で蘇生措置が施され、銃弾摘出の手術を受けますが、絶命。犯人死亡で、事件は幕を下ろしました。

事件後発覚した梅川の生涯

 

事件後、梅川が15歳で強盗殺人事件を起こし逮捕されていたこと、強盗殺人罪で本来は死刑または無期懲役判決になるところ少年法により1年半ほどで中等少年院送致だけで済まされていたこと、さらに少年法第60条による少年時代の殺人歴が銃刀法第5条の不許可条項に該当しなかったため、住吉警察署より猟銃所持許可が出されていたことなどが、明るみになりました。

当時の警察会見やマスコミでは少年法改正議論には至りませんでしたが、後の少年法改正の際に「参考とすべき事件」として扱われた、と言われています。

 

梅川が北畠支店を狙った理由は「最寄りの警察署から車で3分以上かかる」から。そこで「銃で脅して3分以内に金を奪って逃走」の計画を立てますが、たまたま付近を通りがかった警察官が連絡してすぐさま包囲されたため、この計画は失敗に終わりました。

 

また、梅川は高校を半年で中途退学しつつも大の読書家で、後に自宅からヒトラー、ムッソリーニ、スターリン、チャーチルなどの伝記、ドストエフスキー、ニーチェなどの思想書や六法全書、経営学、医学書、そして大藪春彦のハードボイルド小説などの書籍が600冊以上見つかりました。

 

また、バーテンやツケの取り立て役など不特定多数の客と長く接してきた経験から記憶力が高く、39名の人質の顔と姓名を全部覚えていたと言います。

注目された「ストックホルム症候群」

 

また事件の最中、見張り役をさせられた女性行員が梅川に「警官隊がいます」と伝えていたことなどがわかり、極限状態の犯人と被害者の間に妙な連帯が生まれる「ストックホルム症候群」では、と話題になりました。

 

映画「TATOO〈刺青〉あり」

 

本事件を題材とした映画に「TATTOO〈刺青〉あり」があります(1982 昭和57年公開、高橋伴明監督、主演 宇崎竜童)。本作は「山口組の伝説の“3代目“、田岡組長を狙撃して惨殺された鳴海清の愛人と梅川の愛人が同一女性だった」という新聞記事をヒントに制作され、話題となりました。

梅川の生い立ちから事件を起こすまでの軌跡を描き、事件自体の描写は省略されています。ピンク映画を50数本監督た高橋伴明氏の初の一般映画監督作品であり、井筒和幸氏がプロデューサーを務めたことでも知られています。ちなみにヒロイン役の関根恵子さんはこの映画で高橋伴明と知り合って結婚しました。

 

ローカルニュースへの影響

 

本事件はNHK大阪、毎日放送、朝日放送、関西テレビ、読売テレビの5局が解決までを中継放送。

 

読売テレビのみがVTRで保管しておらず、この一件で読売テレビは「ローカル報道の取り組みが遅れている」と問題視され、ローカルワイドニュース番組が編成されることになったといわれています。

支店は現存

 

本事件後、三菱銀行では2度の大型合併が行われましたが、本事件の現場である店舗は「三菱UFJ銀行北畠支店」として現存しているそうです。

 

コメント

  1. ありがとうございます。 より:

    この件については毎日新聞出版から 破壊 というタイトルで良い本が出てるんですよ。少年時代の非行歴から詳しく取材してる。パゾリーニの ソドムの市 に大変は感銘を受けたのは本当だそうで友人らに 見てきたでえ などと言ってたそうです。ただ直接の動機は30になったので 一発でっかい事件うったる みたいなものだったらしい。あと 刺青あり ですけど、まあしょうもない箸にも棒にも掛からない、安い というしかない駄作、おそらく30分テレビドラマの方が金使ってる。そもそもなぜ事件そのものを省くのか。金がないからでしょう。脚本もなってなくてまあしょせんエロ映画あがりの監督だからか、話になってない。

    • ピンチョン より:

      「TATOO-刺青あり」のこと、酷い書きようですね。「安い」って、そりゃ制作費1000万程度のATG映画ですから当然でしょう。かといって、それが作品の良し悪しの判断基準になるのはおかしいです。それと事件を描かなかったことに関しては、高橋監督の意向が「事件そのものより、なぜこのような凶行を働くに至ったのか?」にあることは様々な媒体で語られているはずです。「エロ映画上がりの監督」=上等じゃないですか?ピンクやロマンポルノから一般映画に進出した立派な監督はいくらでもいます。同時にピンク、ロマンポルノでもいくらでも素晴らしい作品はありますよ。作品の批判をするのはご自由ですが、それなりの論証をすべきです。偏見に満ち満ちたヘイトにしか見えません。そんな人間の意見に誰が耳を貸しますか?という話。

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